たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2004年12月3日執筆  2004年12月7日掲載

後手後手政治のツケ

中越地震前後に、暗いニュース、不安になるニュース、恐ろしいニュースが集中した。
ブッシュ再選とその後すぐのファルージャ総攻撃は、世界の終末を予感させる最も分かりやすいニュースだったが、もうひとつ気になったのは、中国の東シナ海におけるガス田開発にからむニュース。先日の潜水艦騒ぎも、ガス田開発にどこかで関係しているのではないかと思っている。

Googleで「天然ガス田 中国 東シナ海」というキーワード組み合わせで検索すると、たくさんの情報が出てくる。
中でも、平松茂雄教授(杏林大学)は、以前から日本の対応の遅さ、いい加減さを指摘、警告し続けている

東シナ海にかなりの規模の海底資源があるらしいということは1960年代にはすでに分かっていた。中国がすぐに動きだし、70年代に調査を完了。80年代には実際に二十数か所でボーリングをし、1992年には上海石油天然ガス公司を設立。平湖、春暁、天外天という3つのガス田のプロジェクトをスタートさせた。
平湖ガス田は1998年から実際に稼働しており、上海市に年間4億5,000m3の天然ガスを供給している。
今年になって日本が特に問題にしているのは、春暁ガス田群開発。これもすでにガス田と大陸を結ぶ総延長470kmほどの海底パイプラインの敷設工事が始まっている。こちらは平湖以上に有望らしい。2005年5月には第1期工事が完成し、年間25億m3の天然ガスを浙江省と上海市に供給するという。

要するに「計画」段階ではなく、もうすでに動いているのである。
こういう事態になるまで、日本政府は何をしていたかというと、ほとんど何もしていない。
1960年代、東シナ海の海底資源が有望だということが分かった時点で、日本でも石油会社4社が開発したいと政府に打診したが、日本政府はそれを押しとどめてしまった。
理由は、中国との海上境界線問題が決着していないので、現時点では中国を刺激したくないということがいちばん大きかったらしい。
中国は、中国大陸から沖縄トラフまでは「一つの連続した大陸棚」であると主張している。中国大陸そのものが張り出しているのだから、東シナ海大陸棚は当然全部が中国のものであるというわけだ。風呂に浸かった自分の膝の上は、言うまでもなく自分のものという論。
一方、日本は、東シナ海大陸棚は、それに面している中国、韓国、日本からの中間線部分に国境を引くのが当然という、いわゆる「中間線」方式での国境決定を主張している。共同浴場にみんなで漬かっているんだから、その真ん中に線を引いてお互い突っつきあったりしないように仲よくやりましょうよ、という論。
両者、一向に折り合いがつかない。

国境問題は日本にとっても中国にとっても同じように神経を遣う問題であるはずだが、中国は日本が主張する中間線に沿った中国側ぎりぎりのところでさっさと掘削をして海底資源の採掘が可能なことを実証し、すでにその資源を利用している。今頃になって日本政府が中国側に「どんな資源がどのくらい眠っているのか教えてよ」と言っても、実際にそれを使い始めている中国が「こんなにすごいんだよ」と教えてくれるわけがないではないか。
日本はいまだに本格調査をするべきだのなんだのというレベルで議論している。何を今頃になって! これだけ差がついたら、交渉をするもなにも、最初から勝負にならないのは目に見えている。

天然ガスは液化して運ぶにはコストがかかるため、パイプラインを建設して引き込む方法がいちばんよいとされている。この点では東シナ海の天然ガス田については、中国側が圧倒的に有利だ。日本政府が腰を上げなかった理由も、こうした地理的な問題があったからとも言われている。
しかし、それ以上に、日本政府にエネルギー問題をまともに理解できる人材がいないことが大きいのではないだろうか。
なんだかんだ言っても、エネルギーの主役は石油であり、石油なき後の主役は天然ガスになることは分かっている。石油がある今だからこそ、太陽光だの太陽熱だのという幻想をPRし続けられるのであり、実際には石油を超えるエネルギー資源はない。
原子力は廃棄物問題の解決が完全に閉ざされている。コスト計算でも嘘に嘘を重ねて情報を流しているが、そんなことをいつまで続けるつもりなのだろうか。すべては石油が潤沢にあるうちの芝居であり、いよいよ枯渇してきたら、石油を巡る争いに世界中が巻き込まれるという、想像を絶する修羅場が待っているのだ。

しかし、こういう問題は、下手をすると過激な国家主義に口実を与え、危険な方向に議論が進みかねない。
誤解、曲解されると困るので一応断っておくが、中国に対して圧力をかけろなどと言っているのではない。日本は自分からは喧嘩をしかけませんというのが国是なのだから、あくまでも政府同士の話し合いで事を進めていくのは当然だ。しかし、これだけ後手後手になっていたら、相手から馬鹿にされて、まともな話し合いさえしてもらえない。そういう状況を作りだしてしまったことを問題にしているのだ。

余裕のない人間ほど、追い込まれると、武力、あるいは武力を含めた威圧に訴えようとする。北朝鮮問題でもそうだが、「ヤクザ相手に紳士的に接していても埒があかない」という論が出てくる。毅然として筋を通すことと、武力を背景に威圧することは似て非なることだ。
威圧論が暴走し始めることを非常に懸念している。そうならないためにも、情報や技術の面で、日本は常に先を行かなければならない、と言いたいのだ。
日本の武器は先進技術であり、それを駆使できる人材の豊富さであったはずだ。それなのに、ガス田問題などでは馬鹿らしいほど後手後手に回っている。国のリーダーが問題の重要度を認識できていない。どうにもならないほど劣勢になってから騒ぎ出す。
日本が技術を駆使して、海底資源に関する正確なデータも先に握っていれば、30年前に、もっと余裕を持った話し合いの場を持てたのではないか。30年前、日本と中国の経済力は今よりもずっと大きな開きがあったはずだ。
その有利さを生かせないで、ぼーっとしているうちに、ゲームの大局はもう決まってしまったと言ってもいい。

話し合いの前提となる情報さえ相手方がすべて握っているという状況を作りだすことは、本来あるべき共存共栄の関係にも障害となることを知るべきだ。
すべて分かった上で喧嘩しない国になることと、何も分からない与太郎国となって喧嘩できないことはずいぶん違う。僕自身は、与太郎国と馬鹿にされても、喧嘩しないことのほうを選びたいが。(「与太郎」が問題あるなら「超ナイーブ」と言い換えてもいい)

東シナ海大陸棚で石油が最も豊富に埋蔵されているとみられている地域は、「日中中間線」の日本側だという。そのため、中国は日本の主張する「中間線」の中国側だけでなく、日本側にも施設を造り、資源採掘を始めるもくろみだと伝えられている。
日本政府が、自分の国土だと主張する場所に眠る貴重な資源を隣国に吸い上げられるという事態は、日本国内にも危険な状況を生み出す恐れがある。核武装論とか力の外交論とかの拠り所になってしまうことがとても心配だ。実際、WEB上でもあちこちで「ふざけるな中国」「中国をぶっつぶせ」的な主張が目立ってきている。かつての世界戦争前夜を思わせる。
さらには、ここにきて日本政府は、このまま国境問題が進展しない場合は、従来の「中間点」という立場を捨て、もっと中国側に境界線を食い込ませる「日本沿岸から200カイリ」を主張する方針も固めたと伝えられている。日本沿岸から200カイリというのは、今回クローズアップされている春暁ガス田群だけでなく、すでに98年から稼働している平湖のガス田さえも「日本側」に入ることになる。
「6年前から知っていましたけど、実はお宅の井戸はうちの敷地に勝手に掘ったものですよ」と言うわけだから、中国が態度を硬化させることは目に見えている。いくらなんでもやり方が下手すぎる。

戦争は、いつも資源と領土を巡って起きる。知らないうちに取り返しのつかない事態になる前に、まともな資源の調査、研究を進める努力をすることが、いちばんの「国益」あるいは「国防」ではないか。それを怠ってきた日本政府は、エネルギー問題に対してあまりにも危機感がなさすぎるし、問題の本質が見えていない。
中国が今の速度で経済発展を続けていけば、桁違いの石油を消費することは明白だ。そのことは当の中国がいちばんよく分かっているはずだ。
あっという間に限界点を超えて、世界中が、石油や天然ガスを巡る血みどろの戦いに発展する。そうなれば、単に貧しくなっていくより、ずっと恐ろしい世界が待っている。

エネルギー資源の争奪で醜い争いをするくらいなら、縄文時代の精神に戻って心の豊かさを追求する国になる、などという仙人のような思想を政府が掲げ、国民の大多数がそれに応じるというなら、僕もそれなりに努力しようと思う。でも、そんなこと、政府も国民も、つゆほども思っていない。
世界がとっくに見切りをつけた核燃サイクル計画に、一体いくら注ぎ込んできたのか。その一方で、自分の国の周りにどれだけの地下資源が眠っているのか正確に把握できず、隣国に絶望的なまでの後れを取る。いつまでそんなとんちんかんな金の使い方をする気なのか。
何に金を注ぎ込み、何を切り捨てなければいけないかを決められない、あるいは理解さえできない政治家に「国益」を守ることなどできるはずがない。

ところで、天然ガス田の変形バージョンとして、ガスハイドレートというものがある。これはガスが低温・高圧下でシャーベット状に閉じこめられたもので、直接採掘が可能な天然ガスに次いで、将来は有望なエネルギー資源として注目されている。日本列島の周囲には、このガスハイドレートが眠っている場所が多数あることが分かってきているが、この調査や研究にも、まだまだ金と人材の投入が足りないように思える。

例えば、東シナ海の石油・ガス田は、今からなんとかうまく交渉して、共同開発権に精一杯絡んだ上で、直接の利用は諦めるとする。本当はもっとうまくやれたはずだが、これだけ後手後手に回ってしまった以上、具体的な策がないまま、国境論争を加熱させるだけでは危険な状況を生み出すだけで、日本にこれ以上得になることは出てこないだろう。
その場合、当然、そこから何を学ぶかが次の仮題である。
先手を取ることがいかに大切か。後手に回ったときに失うものがいかに大きいかを学んだ上で、どんなエネルギー政策が本当に有効なのかを見極め、他国が動き出す前に情報や技術を自分のものにすることが、日本にとって最大の国益・国防政策となるはずだ。
ガスハイドレートはひとつの例である。もう後手に回ることは許されない。これはもう、必死になるしかない。
やるべきことをやらず、自分では何も決められず、もはや取り返しがつかない、どうにもならなくなった時点で唐突に騒ぎだす。そんな政府にはもううんざりだ。
少なくとも、靖国問題などという都合のいい反論材料を相手に与え、大切な問題をはぐらかされるような下手な外交を、これ以上続けていてはいけない。


配電盤
●配電盤(守門村目黒邸にて)
目黒邸も中越地震で相当なダメージを受けたと聞いている。
(c)Takuki Y. http://takuki.com

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