たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2002年5月25日執筆  2002年5月28日掲載

人口問題のタブー


坂口厚生労働大臣が、少子化対策問題に絡めて「このままでは日本という国が滅亡する」と発言したことがメディアでさかんに取り上げられた。ただし、その発言に対する批評はあまり聞かない。
取り上げたメディア側としては、「少子化が進めば国が滅びる? そんな単純な問題なわけないだろう」と、本当は言いたいところなのだろう。しかし、言わない。もっとはっきり、「あほちゃうか!」とツッコミを入れる人がいてもいいのに(「ニュースステーション」で、久米宏氏が「個人の問題だ」と切り捨てたくらいだろうか)。なんだかタブーの臭いがする。

そもそも少子化だの出生率の低下だのと騒がれるが、日本の人口は戦後一貫して増え続けていて、減ってはいない。「人口増加率が減った」というのは、人口の増える割合が下がったということであって、人口が減ったわけではない。ここがまず、言葉のトリックだ。人口そのものは増えているのだ。

次に、人口問題の議論は、「適正人口」はどのくらいなのかという話抜きではできない。日本という国も、地球という星も、人口増加に合わせて物理的に膨張するわけではない。
工業製品や農作物を作りだす技術をいくら向上させたところで、限界がある。さらに決定的なことは、生物が活動すれば必ず生じる汚染(廃熱や廃物)を宇宙に捨てる仕組みは、地球生態系による物質循環、熱循環システム以外にはなく、科学技術では代替できないということだ。たとえ、将来「夢のエネルギー」を見つけたとしても、生態系による循環システムに代わる「夢のゴミ捨て場」は手に入らないだろう。
つまり、地球上に生きられる生物の数には限りがあるわけで、無限に人口が増えていいはずがない。
「人口問題」といえば、地球規模では「いかに増えることを抑えるか」が最大の問題になっているのは周知の事実だ。

出生率が減っているのに人口が増え続ける。それはつまり、生まれてくる人間が少なくなっても、死ぬ人間はもっと少ないということに他ならない。
出生率を上げて、しかも人口を増やさないためには、人間が長生きせず、早めに死ぬより他はない。次の世代のために、老人はさっさと死にましょうという話になってしまう。これが最大のタブーになっているため、人口問題論議は、いつもどこかで「もや」がかかったようになってしまう感がある。

日本では、ここ数年、生まれてくる人間が120万人前後、死ぬ人間が90万人前後で、毎年30万人くらい人口が増えている。ただ、このまま進めば、5年後くらいに出生数と死亡数が並び、それ以後は日本の人口が少しずつ減り始めると予測されている。そこから先、100年後には7000万人を切ると予測するデータもあるが、環境問題の悪化や国際情勢の変化で、世の中は予測を超えた動きをしていくだろうから、今の人口推移カーブをそのままあてはめてシミュレーションしても、どれだけ意味があるかはいささか疑問だ。
また、石油資源の枯渇や環境破壊が進むことが分かっている以上、人口が減ろうとするのは正常な反応とも言える。それに、たとえ100年後に7000万人になったとしても、昭和初期の人口に戻るだけだ。100年後の人口を心配する暇があるなら、100年後の人間が健康に生きられる環境を残せるかどうかを真剣に心配することこそ「人道的」だ。

とにかく、今さらじたばたしても仕方がない。老齢化社会が訪れることはまず間違いないのだから、当面の問題は、いかにしてその老齢化社会を肯定的にとらえて、住みやすくしていくかであるはずだ。年金制度の破綻に怯える前に、年金だけでなく、税金を無駄食いしている一部の老人支配構造を解体し、多くの老年層が普通に仕事ができる社会を作ることが先決だろう。それには、今までのような終身雇用制度や定年制の考え方を変えなければならないし、企業の形態そのものも考え直したほうがいい。歳をとるにつれて労働価値が上がるような、厚みのある人材を育てなければ、豊かな老齢化社会は実現しない。

また、少子化問題の根本は、人々が「将来に夢を持てなくなった」こと、現在の社会に我が子を送り出す気持ちが持てないことにある。
僕を含めて、子供を作らない行き方を選んだ男たちが3人集まって話をしたことがあった。そのとき、一人がこう言った。
「子供を作っても、今の日本ではきちんと育てる自信が持てないよ。大体、小学校に上げる前に、学校に行かせるべきかどうかということで悩むよね」
まったくその通りだ。真剣に子供のことを考えれば考えるほど、今の学校教育とは関わり合いたくないと思う。子供を作れと言うなら、子供を作る気になれるような、将来に夢を持てる教育制度を考えてくれ、と言いたい。

どうすれば夢が持てるのか? 方法はある程度探れるが、実現するとは思えない。なぜなら、この国の指導者たちにまったく期待ができないからだ。
一国の大臣が、「少子化対策は、残業を減らして早く家に帰ること」などと平気で言う。
「みなさん、早くおうちに帰ってセックスをいたしましょう」というレベルの発想をしている大臣に、この国の運命を委ねなければならないのだ。
あの発言を聞いて、ますますこの国の将来に絶望し、「やっぱり子供を作るのはやめよう」という気持ちを新たにした人は、少なくないに違いない。


ふてくされているキツネ

■ 日本一ふてくされているキツネ(栃木県那須郡那須町寺子乙 稲荷大明神) 撮影 鐸木能光