たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2002年9月20日執筆  2002年9月24日掲載

デジタル放送ストレス


先日、録画しておいたイギリスのテレビドラマ『刑事ウィクリフ』を見ていたら、話が佳境に入ってきたところで突然画面が消えてしまった。
<電波が受信できません>
ぬわに? これからいよいよ犯人が分かるってときに、なんじゃそりゃぁ。

祈るような気持ちで早送りする。ハードディスクレコーダーへの録画なので、ボタン1つで30秒後ろに瞬時にジャンプするのだが、何度ボタンを押しても画面は <受信できません> 表示のまま。諦めた頃、最後の2分くらいだけがかろうじて残っていて、再生された。
ああ~、やっぱり犯人はこいつかぁ。だけど、なんでそうなったの?
肝心な謎解き部分は分からないまま、事件の発端と結末だけ見せられたわけで、とっても気持ちが悪い。

原因は、放送中、台風が接近したことだった。ご存じのように、衛星放送は悪天候にとても弱い。
アナログの地上波放送なら、電波障害が起きて画像が乱れたり音声にノイズが入ったりしても、話の展開くらいは追えただろう。でも、デジタル放送は、ある限界を超えるとまったく映像も音声も途切れてしまう。
衛星放送だけではない。データエラー訂正の限界を超えると一気に使い物にならなくなるというのは、デジタル信号の宿命だ。DAT(デジタル・オーディオ・テープ)やMDにノイズが入ったときは、耐えられないような物凄いノイズになる。ほんの一か所だけデータが壊れても、聴く気になれない。
テレビの地上波放送もデジタル化が進められているが、完全にデジタル化された後は、視聴者がこうしたぶつ切り現象でストレスをため込むケースが増えるのだろう。これも「デジタルストレス」のひとつだ。

デジタル衛星放送には、さらに別のストレスも伴う。
110度CSというのをご存じのかたは、まだ少数派かもしれない。今年の春から放送が開始された新しい衛星放送で、N-SAT-110という衛星を使って電波を送信している。
この衛星は、BS放送に使われている衛星と同じ東経110度の軌道上にあり、BSデジタル、BSアナログ放送とアンテナを共用できる。
しかし、従来のBSアンテナ、チューナーではこの新しいCSには対応していないので受信できない。110度CS放送を受信するためには、新しいアンテナとチューナーを用意しなければならない。

我が家では、今年の春、BSデジタル放送用のチューナーを購入したばかりだった。
機種がまだ少なく、この手の機器としては非常に高価だった(7万円くらい)。29インチのBS(アナログBS)チューナー内蔵テレビを4万円弱で買ったことを思えば、単体チューナーに7万円は高すぎると思わざるをえない。それでも購入したのは、地上波民放には、今後も見るに値する番組は期待できないと思ったからだ。
衛星放送は玉石混淆(まあ、ほとんどは石以下の汚泥みたいなものだが)ではあるが、たまに「玉」もある。ラーメンズやイギリスの刑事ドラマは、地上波ではほとんど見られない。
110度CSの存在を知ったのも、バナナマンのライブを放送することを雑誌で読んだからだ。「CSで放送」とあるので、当然スカパーだろうと思っていたら違っていたという次第。

110度CSには、現在、プラットワンとスカイパーフェクTV!2という2つの放送母体があり、数十のチャンネルが放送されている。
プラットワンのサイトには、「BSデジタル放送だけでなく、110度CSデジタル放送も視聴できる環境が、これからの標準となります」などと書いてある。これを文字通りに解釈すれば、我が家でこの春7万円で購入したBSデジタル専用チューナーは、買うと同時に「標準ではないもの」=「過去の遺物」になりはててしまったわけだ。
あああ、こんなことが許されるのか? 7万円もしたのに!!!

そもそも、我が家のデジタル放送第一歩はディレクTVだった。当時、衛星放送はスカイパーフェクTV! と ディレクTVの2つあったのだが、敢えてチャンネル数・加盟者数の少ないディレクを選んだのは、「BET ON JAZZ」というジャズ専門チャンネルがあったからだ。このチャンネルを見るためだけに衛星放送に加入したと言ってもいい。
その後、BET ON JAZZの中の「DISCOVERY JAZZ」という番組宛にKAMUNAのビデオを送りつけて放送してもらったこともある。それを見て感動したイタリアの青年が、ファンメールを送ってきてくれたりもした。衛星放送は世界を結ぶのだなあと実感できたものだ。

しかし、そのディレクTVは、日本での営業をやめてしまった。おかげで専用アンテナとチューナーは、1年も経たないうちに粗大ゴミとなった。
ディレクTVは日本での営業終了に際して、スカイパーフェクTV!視聴機器を無料で提供するなどの救済措置を行ったが、そのスカパーも、営業を停止するチャンネルが続出。残っているチャンネルも、使い古しのビデオを繰り返し流すだけのような、死に体になっているところが多い。
こんなんで衛星放送は成り立つのかいなと訝っているときに、さらに新たな規格の衛星放送が出てきて、しかも従来の機器では受信不能ときた。いいんだろうか、こんなことで。

新しい技術や新しいメディアが出てくることはいいのだが、どうもそれにふさわしいソフトやインフラが決定的に遅れている気がする。
ハイビジョンや高音質、ましてや5.1チャンネルサラウンド音声なんてものは後回しでいいから、面白いソフトを普通に供給してくれよと言いたい。モノクロ画像や帯域の狭いモノラル音声でも、よいものはよい。
低画質・低音質でもいい。世界中のジャズライブハウスで行われているライブを録画したものを24時間流し続けるジャズライブチャンネルとか、日本中の寄席をそのまま録画したVTRを延々放送し続ける席亭チャンネルなんてあったら、それだけのために毎月1万円払ってもいいんだがなあ。

能生白山神社のでか狛犬
■写真:実は僕の背より高い「でか狛犬」 (撮影・鐸木能光)
能生(のう)白山神社(新潟県)

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