たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2002年10月11日執筆  2002年10月15日掲載

CM音楽の絶滅


少し前のことになるが、小林亜星さんの『どこまでも行こう』と服部克久さんの『記念樹』の間で争われている「盗作」裁判に、東京高裁の判決がくだった。
一審では服部さん側が勝利しており、誰もが二審も同じだと思っていたのではないだろうか。ところが逆転して、小林さん側の勝利。

で、今回はそのこととは直接関係なく、CMソングの話をしてみたい。

『どこまでも行こう』は誰もが知っている通り、ブリヂストンタイヤのCMソングだ。文句のつけようがない名曲である。
この曲は1966年にヒットしたが、かつて、CM音楽には名曲がたくさんあった。
CMソングは、短い時間ですぐに覚えてもらわなければならないから、メロディーは自然と親しみやすく、かつとぎすまされたものになる。
ところが今は、そもそもCMソングと呼べるものがほとんどない。テレビCMから流れてくる音楽は、ほとんどが「ありもの」と呼ばれる既成の曲で、そのCMのために書き下ろした曲などほとんどない。それこそ、亜星さんの「パッとサイデリア~」くらいしか思い浮かばない。あとは「べんきょーしまっせ引っ越しの~」とか、どれもこれも開き直り路線ばかり。

かつてのCM音楽はすごかった。
マンハッタントランスファーが歌った『女王陛下のお買い物』(伊藤アキラ・作詞、樋口康雄・作曲)を覚えているだろうか。あのニューヨークを代表するジャズコーラスグループが、日本語で「伊勢丹で~お買い物ぉぅ!」って歌っていたのだ。もちろん、めちゃくちゃかっこいいハーモニーで!
フィフスディメンションが歌うセイコーのCMソングなんてのもあった。
この2曲は、僕が師匠として尊敬していた樋口康雄さんの作曲作品。MDに入れ、今でもときどき車の中で聴いている。

他にも、自動車は新型車が出るたびに車名の入ったCMソングが作られていた。バズが歌ってヒットした「愛のスカイライン」(『愛と風のように』)は、今でも歌える人が多いのではないだろうか。
カローラやサニーにも素晴らしいCMソングがたくさんあった。
しかし今は、新型車が出ても、既成の曲が後ろで流れているだけ。書き下ろしのCMソングなんてすっかりなくなってしまった。

オーディオ関連にも名曲がたくさんあった。
吉田拓郎が歌っていたテクニクスのCMソング『僕の旅は小さな叫び』(そいつぅ~は、だれに~も、分から~ない~……ってやつ。山川啓介・作詞、渋谷毅・作曲)。
FMで流れていたAKAIのオープンリールテープデッキシリーズのCMソングも素晴らしかった。いくつもあったが、作曲はほとんど大野雄二さん。

深町純が歌った東京電力のCMソングなんかもよかった。「電気はピークを外してど~ぞ」って歌われちゃうと、ああ、そうしないとまずいよな、と思ってしまったものだ。
モービルガソリンのCM『気楽に行こう』(マイク真木・作詞作曲)なども、『どこまでも行こう』に負けぬ名曲だった。

あのメロディー全盛時代を、小林亜星さんも服部克久さんも生きてきた。
それが今では、譜面に書いた音符の照合をして、同じだとか、似ているけれど違うものだとか、哀しい法廷闘争になってしまっている。後ろにいるのは「音楽ビジネス」の代理人たち。
僕には、二人の争いは、「メロディーを失ってしまった現代」を象徴しているように思えてならない。

(個人的には、亜星さんが怒る気持ちはとてもよく分かる。「あんたも一緒にあの時代を生きてきたはずだろう。まさか『どこまでも行こう』を一度も聴かなかったなんて言わせない」……と言いたいに違いない。)

CM音楽が消えてしまった原因のひとつは、企業にお金がなくなってしまったからだ。
僕が芸能界にいたのはほんの短い間(数か月)だったが、そのとき、ポテトチップスとカップラーメンのCMソング競作に参加した。どちらも、複数の作曲家がスタジオでデモテープを録り、その中からいいものを選ぶという贅沢なコンペだった。
NTT(当時は電電公社)のCM音楽を作ったときも、冒頭の「電電公社のお知らせコーナー」というサウンドロゴひとつ作るのに、複数のCM音楽制作会社が複数の作曲家に競作させた(ちなみに僕の作品が採用になった)。
今では到底そんな贅沢は考えられない。ましてや、デパートがアメリカの一流アーティストに自社のCMソングを歌わせるなんて……。

でも、CMソングが消えたのはそれだけが理由ではないだろう。人々が、メロディーというものを大切にしなくなってしまったことが、いちばん大きな理由なのではなかろうか。
メロディーは12音の組み合わせだから、いつかは枯渇するという説がある。そうだろうか? いや、違う。現代が魅力的なメロディーを失ってしまったのは、メロディーが枯渇したからではなく、人々がメロディーを愛する心をなくしたからだ。魅惑的なメロディーはまだまだある。

そう信じて、我がタヌパックスタジオは、頑張るのである。開店休業状態だが、お仕事はいつでもお受けしまっせぇ。

15年前のタヌパックスタジオ
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今も同じ四畳半だが、卓は英国SOUND TRACKS PC-MIDIからYAMAHAのO2Rというデジタル卓に変わった。機材はデジタルでも、魂はまだアナログなり。


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