たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2002年2月13日執筆  2002年2月17日掲載

人が人を採点することの難しさ

ソルトレークオリンピックの生中継を見ているうちに、すっかり昼夜逆転になってしまった。
僕は基本的に団体競技にはそれほど興味がわかない。個人競技、それも、絶対的な「力」がはっきり現れる陸上競技が特に好きだ。自分の生活が、完全な運動不足で、デジタル漬けだから、逆の世界に憧れるんだろう。

スポーツの勝負は公明正大。強いものが必ず勝つからこそ魅力がある。世界最高を競うオリンピックともなればなおさら……と言いたいところだが、どうもそう簡単ではない。
考えてみると、「真に強いものが勝つ」というシンプルなスポーツは、意外と少ない。
冬季オリンピック種目で言えば、ジャンプなんて、いい風が吹いたか吹かないかという運任せの部分が大きいし、ボブスレーなどは、道具のよしあしが勝負に大きく関係してくる。高性能マシンを手に入れられない国の選手は最初からハンディを負っている。

特に、審判が絡む競技というのは、見ていてとってもストレスがたまる。
フィギュアスケート ペアで、フランスのマリー レーヌ・ル・グーニュ審査員が、最初からロシアのペア(エレーナ・ベレズナヤ、アントン・シハルリゼ組)を優勝させるようにという圧力を受けていたと報道され、大騒ぎになっているが、フィギュアスケートだけでなく、モーグルやスノーボード・ハーフパイプ競技などでも、「なんでぇ~???」と疑問に思う勝負が続出している。

今回のオリンピックで、最初に疑問がわいたのは女子モーグル決勝だった。
素人目には、上村愛子選手が6位というのが解せなかった。解説の三浦豪太氏につられて「やった! やった!」とはしゃいで見ていたせいもあるのだろうけれど、ロシア人審判が出したターン点の4.1にはかなりムッとした。本人も相当ショックだっただろう。

どうにも納得できなかったので、ソルトレークオリンピックの公式サイトに飛んで、審判の採点表を取り出し、印刷してじっくり眺めてみた。

モーグルは、ランディングと呼ばれるターン点が50%、エアーと呼ばれるミニジャンプ台での演技点が25%、ゴールするまでのタイムの速さが25%という構成で得点が決まる。大きな演技をすればエアーで高得点が出るが、その分タイムはロスする。こぶをもろともせず、直滑降に近い滑り方をすればタイムは速いが、きっちりターンしていないと判定されて、ターン点は下がる。いろいろ相反する要素が絡んでいるところが妙味なのだろう。

点数の50%はターン点だから、きっちりこぶを回れるかどうかが勝負を大きく分ける。しかし、これはタイムのように絶対的な評価ができない。5人の審判が5点満点で点数をつけるが、最高点と最低点は切り捨てられ、真ん中の3人分の合計点が採用される。
エアー点は、2人の審判が7.5点満点で採点し、その中間点が採用される。
ターンでは上下2人の点はカットされるが、エアーでは2人の審判の点がそのまま反映されるところに注意したい。

女子モーグル決勝の審判員の出身国は、ターンの5人が、アメリカ、ロシア、スウェーデン、フランス、日本。エアーの2人が、カナダとイタリアという構成だった。
この審判員たちの公正さを「採点」してみよう。

公正さを審査するのは難しいが、他の審判とかけ離れた点数を出した回数の多さがひとつの目安になるだろう。
各審判が、上位10選手に対する採点のうち、最高点と最低点をつけた回数を出してみると、次のようになる。

審判(国籍)最高点回数最低点回数合計
Tina Tanaka(日本)3回4回7回
David Farrar(アメリカ)3回3回6回
Veleri Zhukov(ロシア)1回3回4回
Anne Blomquist(スウェーデン)2回2回4回
Bertrand Couturier(フランス)1回1回2回

これを見ると、日本の審判がいちばん評価の差が激しく、フランスの審判がほぼ中間的な審判をしていることが分かる。
さらに、各審判が最高点をつけた選手と最低点をつけた選手をリストすると、以下のようになる。(かっこ内数字は、その選手の最終順位)

日本人審判
 ◎最高点をつけた選手……日本(3)、アメリカ(5)、日本(6)
 ×最低点をつけた選手……アメリカ(2)、アメリカ(7)、フランス(8)、オーストリア(10)

アメリカ人審判
 ◎……アメリカ(2)、カナダ(4)、アメリカ(7)
 ×……ノルウェー(1)、ロシア(9)、オーストリア(10)

ロシア人審判
 ◎……ロシア(9)
 ×……ノルウェー(1)、カナダ(4)、日本(6)

スウェーデン人審判
 ◎……アメリカ(5)、アメリカ(7)
 ×……アメリカ(2)、日本(3)、

フランス人審判
 ◎……オーストリア(10)
 ×……アメリカ(5)

あちゃあ。まるで絵合わせをしているかのよう。予想以上に「あからさま」で、すっかり気分が萎えてしまった。
よーく見ると、スウェーデン人審判などは、5位、7位のアメリカ人選手には甘い点を与えているのに、優勝したノルウェー選手と競っていた2位のアメリカ人選手には辛い点をつけているのが分かる。

ついでに、エアーの点をつけていたカナダ人審判とイタリア人審判も「審判」してみよう。
この2人が、まったく同じ点をつけたときが2回ある。で、なぜかその2回は、日本人選手(里谷と上村)のときだ。
逆に、4位のカナダ人選手に対しての採点は大きくかけ離れ、カナダ人審判は5.49、イタリア人審判は4.90で、その差が0.59点もあった。
仮に、カナダ人選手に対するカナダ人審判の点数が、イタリア人審判と同じ4.90だったとすると、4位のカナダ人選手の得点は0.29下がり、総合点は24.55。一気に7位に下がる。逆に、もっと露骨にカナダ人審判が5.51をつければ、4位のカナダ人選手は銅メダルに届いたことになる。

なんだかなぁ……。がっかりしちゃうでしょ。こんな感じで順位が決まって、金だ銅だと一喜一憂しているなんて。

似たようなことは、あらゆる「採点系競技」で起きている。
男子スノーボード ハーフパイプでは、中井孝治選手が5位入賞したが、これも審判の採点表をじっくり眺めていると、えっ? と思う数字が目に飛び込んできた。

ハーフパイプでは、審判は5人いる。「標準技(回転技以外)」「回転技」「アンプリチュード(エアーの高さや大胆さ)」をそれぞれ専門に採点する各1人と、「総合(全体的な流れを見る。転倒などの減点も担当)」判定の2人の計5人が各10点満点で採点し、合計点(50点満点)で順位を決める。決勝は2本滑り、合計ではなく、高い方の点がまるまる採用される。
モーグルのターン点と違って、上と下が切られることなく、全員の点数がそのまま反映されるから、ひとりでも極端な点をつける審判がいると、結果も大きく変わってくる。

決勝1回目の演技では、日本人の横山恭爾審判(高さ担当)が中井選手に10点満点をつけた。これも極端だが、そのとき、標準演技(回転系以外の技)審査担当のマチュー・ジロー審判(フランス)は、4.0点という、これまた異常に低い点数をつけていた。
もちろん、見ているポイントが違う(高さと標準技)のだから、評価が違うのは当然だが、さすがにこれだけ違うと不自然だ。高さが10.0点で、回転以外の技の切れ味が4.0点の演技というものが想像できるだろうか?
この1回目では、中井選手はエアー5回のうち3回に回転技を入れた。中でも、横2回転半に後方宙返りを加えた「サトゥーフリップ900」という大技がほぼ完璧に決まったときは、会場が大いに沸いた。他の3審判の点数は、8.5(回転技担当・アメリカ人)、7.8(全体担当・スウェーデン人)、8.0(全体担当・オーストラリア人)となっている。

中井選手は、この理不尽な低得点にもめげず、2回目ではエアーを6回に増やして勝負に出た。しかし、今度もこのフランス人審判は6.0という低い点数しか出さない。他の5審判の点数は、9.3(回転)、8.6(高さ)、8.4(全体)、8.4(全体)だから、やはり6.0だけが異常な低さで目立つ。
仮にジロー審判が、7.4点をつけていたら、中井選手の得点合計は42.2となり、銅メダルだった。7.8点なら42.5で銀メダルだった。

憤慨した佐々木峻監督は、試合後、審判を統括するヘッドジャッジに「標準技担当審判の点数がおかしい」とつめよった。
他の選手たちも採点に憤り、アメリカ人選手が1~3位を独占した表彰台に背を向けて、さっさと会場を引き上げたとか。
なんでしょね、この殺伐とした光景って。オリンピックって、そういうもん?

さて、ここまで書いたら、採点疑惑の本命?フィギュアスケート ペアのことにも少しふれておこう。

ショートプログラムが終わった次点で、優勝本命のカナダペア(ジェイミー・サレー、デビッド・ペルティエ組)は、対抗のロシアペアと僅差。ショートプログラムとフリーでは、フリーの順位のほうが優先されるので、フリーでの演技で優勝が決まるという状況だった。
そのフリーで、ロシアペアは、誰の目にも分かるジャンプの着地ミスを含め、いくつかの減点要素があったのに対して、カナダペアはほぼ完璧な演技。普通に考えればカナダペアの優勝は明らかだったのに、結果は9人の審判のうち5人がロシアペアを優勝とした。

ロシアペアを1位とした審判の出身国は、ロシア、ウクライナ、中国、ポーランド、フランス。
カナダペアを1位と判定したのは、日本、米国、カナダ、ドイツだった。
きれいに旧東西冷戦の対決構図で分かれているが、本来「西側」のはずのフランスがロシアペアを支持したことで、疑惑の目はフランス人審判のル・グーニュに集中してしまった。
噂レベルでは、様々な話が出ている。ロシア出身の現フランス選手、マニナ・アニシナが出場するアイスダンスで、ロシアの審判員から高得点をもらう密約があり、それとバーターだっただの、フランスのフィギュアスケート連盟がカナダペアを異常に嫌っていて、なんとしてでも優勝させるなと自国の審判に圧力をかけただの……。嫌ですね、ほんとに。

思うに、フィギュアの採点方法そのものにも、問題が潜在している。
フィギュアでは、各審判員の得点が単純合計された「合計点」で順位が決まるわけではない。各審判員の中で、結果として評価対象に対して何位をつけたかを集計した「順位点」を出し、それをもとにして複雑な算出法で順位を決める。
問題は、自分の持ち分の中では、選手の順位を審判個人が完全にコントロールできてしまうことだ。
ロシアペアを1位にしたければ、他の選手より合計で0.1でも高い点数になるようにすればいい。他の審判が何点をつけようが関係なく、その審判が出した評価「1位」は「1位×1」としてカウントされる。
審判の談合や不正を生みやすいこの「順位点」方式は、専門家の間でも評判がよくないらしい。

ふう~。審判が点数をつける種目は、かくのごとくストレスがたまるから、やっぱり純粋にスピードを競う種目でストレスを発散しましょうか。
日本が誇る太股大王・清水宏保。あの長野の感動をもう一度。貫禄の金メダルで株価も上昇だぁ!
……と、期待して見ていた人たちも多いはず。

ところが、純粋に「速い者が勝つ」はずのスピード系競技にも、「審判」はいたんですねえ。
スピードスケート500メートル、1日目にトップに立ったフィッツランドルフ選手(米)の「フライング疑惑」。くくぅ~、ストレスがたまる。
ピストルが鳴った瞬間、フィッツランドルフ選手の腕はすでに大きく動いていたように見えた。しかし、それまで他の選手には、時にやりすぎと思えるくらい厳しいフライングを取っていた審判が、このときばかりは知らん顔。
結果的には、2日目と合わせて、優勝したフィッツランドルフ選手と2位の清水宏保選手の合計タイム差はわずかに100分の3秒。もし、あのとき審判がフィッツランドルフ選手のフライングを取っていたら、2回目のスタートは慎重になり、あのタイムは出ていなかったはず。そうなれば当然……。

ま、「もしも」の話はやめましょ。清水選手に対しても失礼だろうしね。
しかし、毎回毎回こういう場面ばかり見せられると、スポーツというものに対しての根源的な感動が失せてしまう。
オリンピックに出ている選手たちは、世界の超一流だ。これは疑いようがない。しかし、一流が集まって世界一を決める祭典で、審判がこれだけ二流なことをやっているんじゃあどうにもならない。

競技の審判員たちの多くは、元選手やコーチだ。当然、自国の競技連盟と深い関わりがある。そもそも、そういう人たちに、公平なジャッジを期待できるだろうか?
未来のスポーツの審判は、感情を持たないロボットが担当する……なんてことになったりして。それはそれで、とっても寒い光景だろうけど。

スポーツというドラマは、人間によって育てられ、そして人間によって壊されてしまった。政治と同じで、根本的な改革が不可能なら、「スポーツの感動」は、今後どんどん汚されていく一方なんだろうなぁ。

Do you remember me?

 ●挿画:Do you remember the time? (c)tanuki
 






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