たくき よしみつ の 鐸木能光のデジカメ・ガバサク談義 デジタルストレス王

デジタル一眼を買えば「よい写真」が撮れるのか?

EOS Kiss Digital デジタル一眼レフが売れています。
価格が大幅にこなれてきたことが最大の原因で、CanonのEOS Kiss Digitalのレンズキットは、6万円台から売っています(2006年6月現在。写真左)。
多くの人たちは、コンパクトデジカメの性能に満足せず、デジタル一眼レフを買うのですが、本当にデジタル一眼なら「よい写真」が撮れるのでしょうか?
CanonもNIKONも、キット販売されているズームレンズのF値はF3.5-5.6と、かなり暗いレンズです。広角開放側でF3.5というのは、ちょっとくらい室内では、ストロボをたかずに撮影することは無理です。
内蔵ストロボをたいたら最後、人物写真などはみんなテカテカになり、いわゆる「素人写真」になってしまいます。
どんなに撮像素子が大きくても、どんなに高解像度でも、基本的に内蔵ストロボをたいて撮った写真はろくなものになりません。
私は、F3.5-5.6などという暗いレンズをつけて撮るくらいなら、最初からデジタル一眼は使いません。言い換えれば、そんな暗いレンズなど、いらないのです。
デジタル一眼を使うのなら、明るいレンズを装着したいと思いますが、この肝心のレンズのことを、多くのユーザーはあまり気にとめていないようです。

デジタル一眼専用レンズは高い

では、デジタル一眼専用の明るいレンズ(開放F値がF2.8より明るい)はどんなものがあり、いくらするのでしょうか?
NIKONでは、
AF-S DX Zoom Nikkor ED 17〜55mm(約25.5〜82.5mm相当) F2.8G(IF) 税込 \231,000
というレンズがあります(2006年6月現在)。
他に35mm換算で約16mm相当の10.5mmという魚眼レンズがありますが、あまりに特殊すぎるので、一般使用には17-55mmの1本しかありません。しかし、このレンズは20万円以上するわけです。カメラ本体の倍ですね。
で、その値段を出してようやく全域F2.8という明るさを手に入れられるわけですが、言ってみれば「たかだかF2.8」です。レンズ一体型デジカメではF2.0-2.4といったレンズを搭載した機種もあるので、明るさでは負けています。
Canonでは、
EF-S17-55mm(27-88mm相当) F2.8 IS USM 税込 \150,150
というレンズがあります。35mmフィルム換算で27-88mm相当。NIKONの23万円に比べればかなり安いですが、それでもボディ本体と同じかそれ以上の値段になります。
デジタル一眼を買うのであれば、こうしたレンズをつけて撮影して初めて自由な撮影条件が得られると考えたほうがいいでしょう。セット売りの暗いレンズなどには目もくれず、最初からこれら全域F2.8のレンズを一緒に買うだけの予算を組まないといけません。

デジタル一眼で35mmフィルム用レンズを使うと……

デジタル一眼レフカメラには、従来の35mmフィルム一眼レフカメラ用の交換レンズが使えます。
F2.8よりも明るいレンズを使おうと思ったら、従来の35mmフィルムカメラ用の交換レンズを使うしかありません。
しかし、フルサイズモデル(35mmフィルムと同じ撮像素子を持つデジカメ)であるCanonのEOS-1Dsなど、ごく少数の高価な機種以外では、撮像素子が35mmフィルムの約半分(APS-Cサイズ)しかないため、35mmフィルム用のレンズをつけて撮影すると、撮像画面の全部を記録できず、周辺部分は切り捨てられることになります。
35mmフィルムの面積本来この面積に結ぶ像を→NIKONのデジタル一眼の撮像素子面積この面積で記録するわけですから→ 重ねると、周囲にはみだした部分が切り取られるこの部分(周囲の緑色の部分)が切り取られてしまうわけです。
このことを「画角が1.5倍になる」などと表現しているわけですが、厳密に言えば、画角が変わるというよりは、周囲が切り取られたために、見かけ上、画角が狭まったように(望遠にしたように)見えるということです。
D70に50mmレンズをつけた状態 NIKONのD50やD70に35mmフィルム用の50mm標準レンズをつけると、約1.5倍で75mmの中望遠レンズをつけたような画角で写りますが、これは本来の35mmフィルムカメラに75mmレンズをつけて撮影した画像とは微妙に違っています。
また、切り取られた結果の「見かけ上75mm」ですから、ボケ具合などは本来の75mmではなく、50mmのボケ具合と同じです。50mm/F1.4のレンズを開放絞りで使った場合、画角は75mm相当の狭さ、ボケかたは50mm/F1.4と同じという画像が得られるわけです。
私のデジタル一眼(D70)の使い方は、ほぼこの50mm/F1.4のレンズをつけた状態が基本(写真左)で、レンズ交換はほとんどやりません。D70やD50用に設計された専用レンズでは明るいF値のものはほとんどなく、あっても非常に高価です。また、デジタル一眼は撮像素子にゴミがつくと除去が大変なので、レンズ交換には神経を遣わなければいけません。レンズ交換ができるというのがデジタル一眼のメリットですが、実際にはしょっちゅう交換していると撮像素子にゴミがついてやっかいなことになります。

それでもデジタル一眼がほしいですか?

デジタル一眼を使おうとするなら、こうした基本知識を踏まえた上で買わないと、「こんなはずじゃなかった」ということになるでしょう。
「よい写真」を撮るには、まずは明るいレンズを搭載したレンズ一体型の中高級機を使いこなしたほうがいいのではないかと思います。あるいは、PanasonicのLC1やSONYのR1のような、明るいレンズを搭載したレンズ一体型高級モデルを使ったほうが、ずっと使いやすく、「よい写真」が撮れる場面が増えるでしょう。
それでも私はデジタル一眼がほしいです。今なら、Canonのいちばん安いボディにEF-S17-55mm(27-88mm相当) F2.8のレンズをつけっぱなしにしたものを1台、一般撮影用に。他に35mmフィルムカメラ用の50mm/F1.4をつけっぱなしにした1台も持ち、2台体制で動けば、ほとんどの撮影がこなせるでしょう。
しかし、それはカシャカシャとシャッター音をたててもいい撮影の場面での話であり、実際にはR1やLC1、F828を持っていったほうがよい、というケースのほうが多いでしょうね。
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