たくき よしみつ の 鐸木能光のデジカメ・ガバサク談義 ガバサク談義

フルサイズデジタル一眼を考える

プロの道具としてなら口出ししませんが……

2008年、NikonとSONYが新たにフルサイズデジタル一眼の製品を発表し、今までは事実上Canonだけだったフルサイズ機の市場が、いちだんと活気づいたと言われています。
最初にお断りしておくと、私はプロカメラマンではありません。フルサイズ一眼はプロカメラマンの道具だと思っており、その意味では細かなことをあれこれ口出しするつもりはないのです。
ただ、カメラのことをあまり分かっていないアマチュアユーザーが、「20万円台なら手が届くかもしれない」と思ってフルサイズ機を買うことには、いささか疑問を感じます。

以下、アマチュアカメラマンの一人として、現在のフルサイズデジタル一眼について、感じていることを書きます。

キヤノン、ニコン、ソニー フルサイズ機への取り組み姿勢の違い

2008年11月時点で、20万円台でボディが買えるフルサイズ機は、キヤノンのEOS 5D、5DMarkII、ニコンのD700、ソニーのα900などがあります。
撮像素子面積は0.1mm程度のばらつきはあるものの、すべてフルサイズ(35mmフィルム1コマに相当する36×24mm)。しかし、撮像素子の基本解像度が大きく違っています。
最も多くの画素を詰め込んだのはソニーのα900で、6048×4032ピクセル(2438万5536画素)。これは、APS-Cサイズの約1000万画素撮像素子の周りをそのまま広げてフルサイズにしたものに匹敵します。そのため、α900にAPS-C用のレンズ(いわゆるデジタル専用レンズ)をつけると、自動的にフルサイズ撮像素子の真ん中部分、APS-Cサイズ相当を使った撮影が可能です。
次がEOS 5DMarkIIの5616×3744ピクセル(2102万6304画素)。その次がEOS 5Dの4368×2912ピクセル(1271万9616画素)。いちばん画素数を抑えたのがニコンで、4256×2832ピクセル(1205万2992画素)。これはニコンの新フラッグシップモデルとなったD3でも同じです。
キヤノンが5D⇒5D MarkIIで解像度を大幅に上げてきたのに対して、ニコンは最初から1200万画素に抑えるという、まったく正反対の路線を選択したことに注目すべきでしょう。
ニコンは、1200万画素は「プロの現場でのあらゆる使用を考えたとき、最もバランスのよい仕様」と言っています。私もそう思います。
拙著『デジカメに1000万画素はいらない』(講談社現代新書)にも書きましたが、1000万画素を超える解像度が必要な写真というのは、プロカメラマンの仕事でもそうそうはないのです。週刊誌の1ページ全画面グラビア撮影でも1000万画素あれば解像度的には十分足ります。ましてや、粒子の粗い新聞写真などでは解像度の高さはデメリットでさえあります。
解像度を上げれば、1画素あたりの受光量が減りますから、色階調やダイナミックレンジ、ノイズなどの点で不利になります。暗い場所でいかにクリアな画像を記録するかという報道カメラマンなどにとっては、解像度の高さによって写真の色調やノイズが犠牲になるというのは耐えがたいことでしょう。
キヤノンは映像エンジンの作りでは非常に優秀な技術を持っており、解像度を上げても、ノイズが増えず、ダイナミックレンジも確保できる十分にきれいな画像を記録できるという自信があるのでしょう。
5D MarkIIとD700のどちらがいいカメラなのかということは、私には分かりません。ただし、画素数(必要解像度)に対する考え方としては、私は、ニコンがフルサイズのフラッグシップモデルを1200万画素に抑えたという決断のほうを、断然支持します。
ちなみに、フルサイズというのは36×24mmで864平方mm。APS-Cサイズはばらつきがあるものの、D90を例に取れば、23.6×15.8mmで約373平方mm。面積にして約2.3倍あります。フルサイズの1200万画素を、同じ画素ピッチを保ったままAPS-Cサイズに切り取ったとすれば、約517万画素です。
ニコンが主張するようにプロが使うフルサイズ機でも「1200万画素くらいがいちばんバランスがいい」のだとすれば、その半分以下の面積しかないAPS-Cサイズの撮像素子に1200万画素以上詰め込むことの説明はまったくつきません。
機種名最高解像度画素ピッチの面積比較手ぶれ補正機構ライブビュー液晶寸法・重量最安値実売価格
D700
Nikon D700

4256×2832
約1205万画素
××147×123×77 mm
995g(本体のみ)
22万円強
2008年7月発売。最上位機種D3の性能をほぼ踏襲して価格をぐっと下げてきた。
EOS 5D
Canon EOS 5D

4368×2912
約1272万画素
××152×113×75 mm
810g(本体のみ)
19万円弱
2005年9月発売。MarkIIが出たが、バランスのよい軽量フルサイズ機としてまだまだ製造を続けてほしい。
EOS 5DMarkII
Canon EOS 5D MarkII

5616×3744
約2103万画素
×152×113.5×75 mm
810g(本体のみ)
27万円弱
2008年11月発売。5Dに比べて解像度を大幅に上げてきたのが懸念材料だが、デジタル処理関連の改良は著しい。 ライブビュー機能が新搭載されたが、使い勝手はαシリーズに劣る。
SONY α900
SONY DSLR-A900(α900)

6048×4032
約2439万画素
156.3x 116.9x 81.9 mm
850g(本体のみ)
26万円前後
2008年10月発売。ボディ内手ぶれ補正機構なので、古いレンズでもすべて手ぶれ補正が効くのが強み。解像度は単純に面積比例させて増やしたため、ダイナミックレンジ拡大などの基本的強化はあまり望めない。
上に、売れ筋モデル4機種の比較一覧を作ってみました。よくある比較表とは違う項目をピックアップしています。特に、画素ピッチ(1画素あたりの面積)の差を実感してみてください。
画素数で注意してほしいのは、フルサイズ機で最も画素数を欲張ったα900でさえ、APS-Cサイズに直せば約1000万画素相当であり、現在の売れ筋APS-Cサイズデジタル一眼より画素数は抑えているという点です。
つまり、フルサイズデジタル一眼の画素ピッチ(1画素あたりの面積)は、一般的なAPS-Cサイズデジタル一眼より広いのです。
Nikonのフルサイズ機は約860.4平方ミリに対して約1210万画素です。
現在売れ筋の1000万画素コンパクトデジカメ(1/2.33型CCD)は、約28.5平方ミリに約1056万画素です。
撮像素子面積の比は30倍以上、画素ピッチの比で26倍以上になります。
2桁違う部品性能のものを、同じように「1000万画素」と言っていることの馬鹿らしさがお分かりいただけると思います。

ときどき、「やっぱり2000万画素は1000万画素の比ではない、別次元の世界の美しさだ」などと言っている人がいますが、何を見てそう言っているのでしょう。
パソコンのモニターに映し出した画像、あるいはA4以下に印刷したものを見てそう言っているのであれば、その美しさは解像度の差ではありません(いずれも解像度は落として最終出力されていますから、1000万画素撮像素子の写真と変わりません)。美しいとすれば、それは映像エンジンの性能(設計のうまさ)や使っているレンズの実力などが加わった、総合的な差によるものです。

フルサイズ機を選ぶ理由とは?

フルサイズ機がAPS-Cサイズデジタル一眼より優れている点は、主に、
1)概ねAPS-Cサイズデジタル一眼より画素ピッチに余裕があるので、よりダイナミックレンジの広いきれいな画像が期待できる
2)35mmフィルムカメラ用のレンズをそのままの画角で使える

の2点でしょう。しかし、
1)に関しては、α900や5DMarkIIくらいまで画素数を上げてしまえば、APS-Cサイズモデルとの画素ピッチの差はあまりなくなってしまい、どこまでメリットと言えるのか怪しくなります。
α900に関しては、1000万画素のAPS-Cサイズ撮像素子をそのままフルサイズの大きさに広げたという印象が強く、画質の向上というよりは、光学ファインダーが大きくて見やすい(そのため、マニュアルフォーカスがやりやすい)といった操作上の質感向上が売りになるのではないかと思います。実際、α900は内蔵フラッシュを諦めてまでプリズムを大型化し、明るく大きなファインダービューを実現させています。
2)に関しては、画角が同じになる便利さはあっても、フィルムとデジタル撮像素子とはまったく同じではないので、「もともと35mmフィルム用に作られたレンズを撮像素子用に代用している」ということに変わりありません。フィルム用のレンズを使う無理、具体的には、広角レンズの周辺での微妙なモアレ感や歪み、ピンボケ感などを完全に解決するのは難しいのではないかと思われます。
今後、フルサイズデジタル一眼専用として完全に新設計・新開発されたレンズ(特に明るい単焦点のレンズ)が出てくれば、そういう問題は消えていくでしょうが、そうしたフルサイズデジタル一眼専用レンズを開発するとすると、相当な値段のものになってしまうでしょう。
また、ニコンとキヤノンはボディ内に手ぶれ補正機構を内蔵していないので、手ぶれ補正機構を内蔵していないレンズを使ったときは補正が効きません。
手ぶれ補正機構内蔵レンズの多くはデジタル専用レンズ、つまりAPS-Cサイズ用のレンズなので、フルサイズモデルには使えません(装着できても、フルサイズ撮像素子をめいっぱい使えるというフルサイズ機のメリットがなくなり、意味がありません)。フルサイズで使える手ぶれ補正内蔵レンズは、一部の望遠ズームや巨大な望遠単焦点レンズに限られています。
こうした状況下では、アマチュアが気軽に持ち歩くデジタル一眼としてはどうなのか、という気がします。むしろ、APS-Cサイズ用のデジタル専用レンズのほうが、小型で望遠性能がよかったり、手ぶれ補正機構が内蔵されているレンズが増えてきているので、そのメリットを生かせる分、APS-Cのほうがいいのでは、とも思います。
もちろん、値段もそうですね。
フルサイズ機を使う人というのは、専用照明を備えたスタジオで商業写真を撮ったり、大型の三脚の上に巨大な望遠レンズをつけたカメラを据え付けてスポーツ写真を撮るといったプロカメラマンでしょう。
それなりの付帯設備がなければ、フルサイズ機の差を見せつけるような写真はなかなか撮れないのではないでしょうか。
シャッターチャンスが命という写真であれば、デジタル専用の広域ズームレンズをつけたAPS-Cサイズデジタル一眼のほうがずっと使いやすいし、結果として「いい写真」が撮れる確率は上がるのではないかと思います。

……とまあ、アマチュアの私はこの程度のことしか考えられませんので、後はプロレベルのかたがたのお考えやポリシー、思い入れなどにお任せする他はありません。このレベルの話では、何が正解かというようなことより、個人の思い入れや好き嫌いなどが優先されるでしょうから。
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