2006年10月27日執筆 2006年10月31日掲載
地上デジタルの悪あがき
携帯電話の「番号ポータビリティ」制度が開始されたとかで、全テレビメディアが大々的にニュースで取り上げていた。いつものことながらうんざりする。
(そもそも「ポータビリティ」ってなによ。「番号引き継ぎ制度」でいいじゃないの)
そんなことより、もっと真剣に伝えなければいけないことがあるだろう。
世界的にも非常に高いとされる携帯電話料金はなぜ下がらないのか。
「平成の大馬鹿政策」のひとつである地上デジタル計画を進めるために携帯電話料金が注ぎ込まれていることを、多くの国民は知らないが、それはちゃんと伝えないメディアの責任でもある。
今日、壊れたハードディスクレコーダー(初期のもので、DVDレコーダーとではなくVHSビデオデッキと一緒になっているモデル。メーカーでもハードディスクレコーダーとは呼ばず、「HDD付きビデオデッキ」という範疇に入れていたもの)の修理が終わったという連絡を受けて、大型家電店に足を運んだ。
テレビの売り場の様変わりぶりにはびっくりさせられた。
もはやブラウン管(この言葉自体、もうすぐ死語?)式のテレビはどこを探しても陳列されていない。プラズマの大型テレビがずらりと並び、これでもかと高解像度の映像をデモンストレーションしている。
(こんなのあったら、絶対に映画館なんか行かないなあ)
小型テレビの売り場は押しやられ、どことなくたそがれている。
小型テレビはすべて液晶タイプになっているが、よく見ると、16~19型というモデルがない。あるのは15型以下だが、これらはハイビジョン対応ではないし、地上デジタルチューナーも内蔵されていない。
つまり、地上デジタルを見るためのテレビは、現在、事実上20V型が最小らしい。価格は10万円前後。
20V型のテレビの大きさは、スタンドを含めると高さが40cm強、幅は約50cmほどである。
これより小さなテレビで地上デジタルを見るには、わざわざ外部のチューナーを用意する必要があり、しかも、地上デジタルの売りである高解像度の映像は見られない。
外付けチューナーや地上デジタル用UHFアンテナという余計なものを買わされ、出費とゴミが増えた結果、いいことは何もない。従来と同じ解像度に落とした映像で地上デジタルを見るわけで、まったく馬鹿馬鹿しい限りだ。
地上アナログ放送停止という国策は、「小さなテレビしか置けない部屋ではテレビを見るな」と言っているに等しい。
病院のベッド脇、山奥のひなびた旅館の部屋、ほとんど帰ってきて寝るだけのためのワンルームアパートの片隅……そうした場所に幅50cmもあるテレビを置けというのは無理である。
現代の生活において「小さなテレビ」は必須である。それを使えなくさせるなどということが許されていいはずがない。
高解像度・大画面でテレビを見たい(見られる)人はどうぞ。地上デジタルもワンセグも、やるのは結構。贅沢は敵だと単純に言うつもりはない。
でも、小さい画面でしかテレビを見られない人たちに一方的に不利益を押しつけ、ささやかな権利を奪うことが許されていいはずがない。使える道具を強制的に膨大なゴミと化すことは犯罪である。
こうした信じがたい愚行を「国策」として推し進めている総務省に疑問を呈する報道が、いまだになされないのはなぜなのだろうか。
ここでも何度か書いたが、阿武隈の我が家は山間部にあり、川崎市の約1.5倍の面積に約1000世帯が生活している。今でも、地上波テレビがきれいに映る家は少ない。
ネット環境も、光ファイバーはおろか、ADSLさえ不可である。
総務省は去年、難視聴地域での地上デジタル受信は不可能というあたりまえのことをようやく認め、CSによる送信や光ファイバーによるネット配信方式を打ち出した。
それも問題が山積で、先行きは見えない。
例えば、CSで地上波番組を流すのであれば、全国で同じ番組が見られるわけだが、それでは地方局の存在意義がなくなるからと、わざわざ地域別に鍵をかけて、エリアを限定する方法をどうするかで悩んでいるという。まったく馬鹿馬鹿しい。
2011年の地上アナログ放送完全停止は無理に決まっている。強行するとしたら、あちこちで暴動が起きかねない。
無理に決まっているので、高みの見物を決め込めばいいようなものだが、見物している間にも、税金から膨大な無駄金が使われ、高い携帯電話料金を払わされるのはたまらない。
以前、選挙の前に「高速道路無料化」を公約として打ち出したことがある民主党。今ならまだ遅くはない。「一度は賛成したけれど、アナログ放送廃止はやっぱり無理だから、これ以上傷を深めないうちにやめる」と打ち出したらどうか。これこそ本当の「現実路線」「庶民のための政策」だと思うが。
●お、懐かしいなぁ!
(震災前の新潟・栃尾市にて)
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