新潟中越地震報道について 04/10/27

視聴者の興味ではなく「現地の被災者に役立つ」報道姿勢を!

■報道関係者のみなさんへ■

新潟中越地震に関する報道について、切に感じていることを書かせてください。
私の家は北魚沼郡川口町の田麦山小高(たむぎやま・こたか)という、全戸数が20そこそこの小さな集落にあります。ブロードバンド環境がないなど、1年を通じて仕事をするにはまだ不便なため、私自身は1年の大半を首都圏(川崎市)で過ごしていますが、少しずつ生活の拠点を川口町に移すべく、ここ10年、自分の手で家を直すなど、準備を進めてきました。もちろんご近所のかたがたにもいつもお世話になっています。

私自身は幸いにも川口町にいないとき、今回の地震が襲ってきたわけですが、被災地に親族や知人を持つ人間にとって、報道機関からの情報があまりにもとぼしく、あるいは一面的(定点観測的)なことに、やりきれない思いを抱いています。
5日目を迎えてもまったく具体的な、あるいは被災者関係者にとって有効な情報が届かないのです。
川口町が震源地の真上ではないかということは、1日目、2日目の報道の内容を私なりに分析し、把握していました。あのへんには土地勘がありますので、土砂崩れや孤立地域の報道を集めると、どうやら山古志村から十日町にかけて、117号線沿いに震源のラインが引けそうだと分かったからです。後に正確な震源地ポイントが報道され、その予測が正しかったことが分かりましたが、不思議なのは、その真上にある川口町に関する情報がほとんど届かないことです。
初日の報道は特にひどく、電気や水道の不通情報でも、最後の最後に「その他川口町の一部でも」などという扱われ方でした。地元の地理を知っている人間には、小千谷市があれだけの被害を受けているなら、川口町はもっとひどいのではないかということはすぐに推測がつくので、なんとも歯がゆい思いをしていました。
川口町は面積的には山古志村より小さいくらいで、近々小千谷市と合併するのではという話も出ていました。人口も少なく(約1500世帯、5700人強)、私の家がある小高のように、20戸、30戸という小さな集落が点在しています。
私の家は、そこから先はどん詰まりの林道で、家が一戸もないという最奥部ですが、そこに至る道は1本しかなく、背後はどこにも通じていません。そういう集落が多数点在するのが川口町の特徴ですから、孤立したときの窮状は、国道沿いにある小千谷市などよりずっと深刻でしょう。
それなのに、5日目を迎えてもまだ、孤立集落の名前すら報道されません。ようやく昨日くらいから、一部の集落名を伝える報道が出てきましたが、私が自分の家がある小高集落がやはり孤立していると知ったのは、TBSのテレビ報道の後にかすかに映った川口町役場の外にある掲示板でです。
テレビは特にひどいもので、あれだけの報道陣が現地に集まっていながら、いわゆる「絵になる」映像を正確なデータなしで繰り返し流しているだけです。
新幹線の脱線はそれほどニュース価値が高いのでしょうか。奇跡的に怪我人がひとりも出なかったのですから、事故分析などは後からゆっくりやってください、と言いたいです。
それより、今苦しんでいる人たちの「正確な」情報を集めてください。

1)各避難所の場所と現在の人数(まったく分かりません)
2)孤立集落の名称とそこに残っている人数(なぜ報道しないのでしょうか)
3)寸断されている道路の情報(行きたくてもルートが見いだせません)
4)どの避難所で何が不足しているのか(今後、いちばん重要な情報でしょう)

こうした生きた情報を流してもらえない限り、何かしたくてもできませんし、関係者は心配を募らせるばかりです。
向かいの家の一家はいまどこに避難しているのか。2日とあけず遊びに来てお茶を飲んでいた向かいのおばあさん(腰を痛めている)は大丈夫なのか。お孫さんが生まれたばかりの寅さんは今どこにいるのか。赤ん坊にミルクを与えられているのか……。
5日経っても、関係者にとって、現地の様子はほとんど分からないに等しいのです。

特に信じられないのはNHKのテレビ報道です。教育テレビを一日中つぶして何をやっていたのか。「○○さん心配しています。連絡ください。凸凹より」なんていう伝言を、スター級のアナウンサーが延々読み上げていましたが、現地では電気も通じていないんですから、誰も見られないのは分かりきっているでしょう。挙げ句の果てには、これを悪用した詐欺電話事件まで発生する始末。チャンネルをひとつつぶすのなら、なぜ「安全が確認された人の情報」を流さないのですか。「避難所にいる人たちの名簿」を流さないのですか。あれほど人を馬鹿にした愚行はないでしょう。
「新潟中越地震のニュースは入り次第お伝えします」という固定テロップを出して、延々静止画を垂れ流すくらいなら、なぜ、道路情報、避難所情報などを文字データだけでいいから流し続けないのでしょう。要するに、NHKはお役所的な固定観念でしか災害報道を考えておらず、民放は民放で、「何を伝えれば役に立つのか」ではなく「どう見せれば関心を引くか」、もっとはっきり言えば「どんな映像をどう見せれば情に訴えるか」という計算でしか報道していないとしか思えません。集落の名前など言っても分かる視聴者はほとんどいないから報道しない、では困るのです。
正確で内容のある報道があってこそ、政府や自治体、民間の援助グループも動きやすくなるはずです。物流関連、製造業、一般レベルでも現地の正確な情報を必要としています。

山古志村が「悲劇の村」として注目されると、各社一斉にその報道ばかり。その一方では、まったく物資が届かず、道が寸断された場所で恨めしく上空を通り過ぎるヘリを見上げている人たちがいます。
報道の発想を変えて、「どうしたら現地の被災者にとって役に立つ報道ができるか」という視点を持ってほしいということを、強く訴えます。決して、「どうしたら一般視聴者の興味を引くだろう」ではなく。

鐸木能光   2004年10月27日 8.15am
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