たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2006年2月24日執筆  2006年2月28日掲載

子供っぽい

国民共済から「医療終身タイプ」という新商品ができたので追加加入しないかというダイレクトメールがきた。「入院保障が一生涯続く新タイプ」だそうである。
あれ? 今まで入っていた共済は、保証が一生涯続くわけではなかったのかしら、と思ってパンフレットをよく見ると、今加入している共済はすべて満60歳で一旦満期になり、その後は継続を希望すれば、「医療移行タイプ」とか「総合移行タイプ」というものに「移行」されるらしい。その後、「医療移行タイプ」は満70歳で満期。「総合移行タイプ」も満80歳で満期になる。さらにその後は、「総合移行タイプ」というのは80歳以降85歳までは「総合80歳以降タイプ」というのに移行するが、85歳でそれも満期になると、その後は何もないらしいのだ。
今度の「医療終身タイプ」というのは、満期が設定されておらず、払い続ければ死ぬまで保障されますよ、ということらしい。

改めてそれを知って、なんだか寂しくなってしまった。歳をとるに連れて保障が先細る。85歳まで生きたら運がいいと思え、それ以上生きるなんて虫のいいことを考えるな、と言われているようだ。
自動的に出世して、権力の座にあるうちに天下り先を確保して、莫大な退職金をもらい、歳をとってからも金の心配をしなくて済む人たちに比べて、自分やかみさんの老後はなんとまあ切ないものか。死ぬ瞬間まで働き続けるのはあたりまえ。病気や事故で動けなくなったときに備えて、自分で稼いだ金を必死で保険やら共済やらにあてても、最後はスーッと見捨てられてしまうのね。髪が薄くなるみたいに。

そう思うと同時に、自分が歳をとったことを改めてひしひしと感じる。
50歳になってからは、もうじたばたしても始まらないと、ちょっとほっとした気持ちでもあったのだが、なんと、50歳の後も、51、52……と歳をとり続けていくのである。あたりまえのことだけど。

「まだお若いから、これからですよ」といつも言われてきた気がするが、そういえば最近、そう言われることもなくなったなあ。たまに言われたときは、ちょっと嫌みに聞こえてしまう。
今までは、仕事でつき合う人たちはみんな年上で、このおっさんをどう説得すればいい仕事ができるだろう、というような悩みを抱えていたのだが、今は編集者とかプロデューサー、ディレクターといった人たちの大半は自分より年下になってしまった。

一旦そういう気分になると、すべてにおいてひがみっぽくなる。
例えば、今回のオリンピックの代表選手を見ていても、自分の歳をどうしても意識してしまう。
20歳にはとても見えないような童顔の少年が、奇声を発して飛び出していったかと思うと、案の定自爆し、挙げ句の果てに雪の上で手足をばたつかせて悔しがる。そのひどい絵が世界中に発信される。
なんだこれ? これがオリンピック???
子供っぽいなあ、子供っぽすぎるなあ、と感じる自分。でも、次の瞬間、ああ、そう感じる自分は老けたのだなあ、と思うのである。

やはり年齢のわりに童顔の民主党の議員が、記者を名乗る人物から渡された「怪文書」のコピー1枚でお粗末な騒ぎを起こした。
そもそも電子メールなんてものは、いくらでも偽装できる。世の中を飛び交っているspamやウイルスのほとんどは送信者を偽装している。僕のメールアドレスが送信者になっているspamやウイルスもたくさん飛び交っている。たとえあのメールが実際にインターネットを経由して誰かのメールボックスに着信したとしても、それだけではホリエモンが書いて送信した証拠にはならない。
ましてや、完全なヘッダ情報さえ記されていないメールをプリントしたとされる紙のコピーなんてものにはな~んの意味もない。
あまりにくだらなくて、論評する気にもなれない。ひたすらこの議員や、民主党という政党の「子供っぽさ」だけが目立ってしまった。

前回の衆議院選挙で小泉与党が大勝ちして、いよいよ「ニッポンを諦める」ときがきたかと思ったが、実は、その後の民主党代表選挙で、現代表が選ばれたときは、もっとがっくりきた。これでついに日本に二大政党時代がくることはなくなったと思ったものだ。
彼や、彼の取り巻きを見ていると、政治が大学の弁論部レベルのゲームになってしまったのだなあと感じる。
何を目標にして、そのためには現実とどう向き合い、どんな戦略で戦うか。それが政治だと思うが、政治家個人にしっかりした理想・理念・教養がない。それゆえ、言動に一貫性がなく、相手を負かすためにはどうパフォーマンスすればいいかという上っ面だけで動いている。言動の裏に信念が見えないから、人々の共感も得られない。
……いや、そんな論評をする気にもなれないくらい、すべてが「子供っぽい」。子供っぽすぎる。
いつからこんな世の中になってしまったんだろう。ずっと前から? そうだとしたら、やはり自分が歳をとっただけ?

いや~な気分が続いた中、荒川選手の優勝。ようやく「大人の」出来事で救われた。
前回のソルトレーク五輪で、あまりにひどい場面ばかり見せられ、冬のオリンピックというものに幻滅していたのだが、今回のオリンピックはちゃんとしてましたね。露骨な偏向採点に腹が立つことも少なかったし、子供っぽい選手が軽いノリのままあっさり優勝してなんだこりゃみたいなこともなかった。
競技連盟やメディアから冷遇された時期もあったらしい荒川選手が、新採点方法に対する疑問と自分の美意識との間で「大人の計算」「大人の決断」、そしてなにより「大人の努力」をした結果がきれいに結果になった。そんな気がして、少しだけ胃腸薬代わりになった。

しかし、あのコスチュームはなんとかならんかったのかしら。特にショートプログラムのときの。せっかくのスラッとした体型や美しいシルエットが台なし。
ま、そんなことにいちいち突っ込むのはやめよう。大人なんだから……ね。


●肉体の中の悪魔
作・Takuki Y. (実はこれ、絵ではなく写真)


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