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幸せビンボー術 25

ビンボーでも楽しめる、ウィズコロナ時代の趣味

ビンボーでも楽しめるオーディオライフ(2) デジタルアンプと自作スピーカー

前項では、そもそもデジタルオーディオとはどういうことか、という基礎知識と、その恩恵を最大限に享受する方法としてのBluetoothスピーカーのことなどを書きました。
ここからは、オーディオ趣味の本道(?)ともいえるアンプとスピーカーについて、ビンボーさんでも楽しめる方法や考え方を紹介します。

デジタルアンプって何?

 さて、いよいよアンプとスピーカーのお話に移ります。
 最初にお断りしておきますが、趣味である以上、アンプ選びやスピーカー選びに「正解」はありません。そもそも「いい音」というものが人によって違いますから、ある人にとって至福のオーディオ環境が別の人には唾棄すべきような劣悪なものにもなりえます。
 アンプやスピーカーは昔から「垂涎の名機」とか「伝説の……」といった類の話が飛び交うオーディオ趣味の中心であり、そこに「正論」とか「合理性」を求めても宗教論争のようなことになりかねません。
 というわけで、以下の話はあくまでも私個人にとっての「ビンボーさんでも楽しめるオーディオ趣味論」だということをご承知おきください。

 まずはアンプ選びですが、現在の私は「アンプは数千円のデジタルアンプで十分」という考えです。

 デジタルアンプというものが登場したのはごく最近のことです。それまで、オーディオアンプといえば、音声信号であるアナログ波を真空管やらICやらを使った回路を通し、アナログ波のまま増幅して出力していました。使うパーツの品質が音質に直結するため、「安いアンプは音が悪い」というのがあたりまえでした。3万円のアンプが30万円のアンプより音が悪いのはあたりまえで、その差はいかんともしがたかったわけです。
 ところが2000年前後から、アナログの音声信号を一旦デジタル信号(デジタルパルス)に変換し⇒それをデジタル処理して増幅させ⇒アナログに戻して出力する、という方法のアンプが出回り始めました。これがデジタルアンプです。
 デジタルアンプには、  ……といった長所があります。
 アナログアンプでは、「超弩級のトランスが高音質のあかし!」などといって、とんでもなく重いアンプがありがたがられましたが、そういう呪縛からは解放されました。
 初期のものは高周波ノイズが出やすいとか電源の変動に弱いといった短所もありましたが、どんどん改良され、今ではほとんどの家電製品や自動車などに普通に使われています。

2000円のデジタルアンプが数十万円の高級アンプに勝つ?

 インド出身のアジャ博士(Dr.Adya S.Tripathi)という天才エンジニアがいまして、1979年にアメリカにやってきます。彼は、IBMやヒューレット・パッカードなど、いくつかの企業を渡り歩いた後、1995年に独立してTripathという会社を設立しました。翌1996年、それまでのデジタルアンプに改良を加えた「Class-T」と称する方式を特許登録し、TA2020という安価なICチップを発売します。TA2020の価格はわずか3ドルでしたが、このチップを使ったアンプの音質のよさは業界を「あじゃ~!」と仰天させます。マッキントッシュ等の数百万クラスのピュアオーディオアンプとのブラインドテストに勝利した、といった伝説を次々に打ち立てました。
 これを業界が放っておくはずがなく、SONY、Apple、Audio Researchといった名だたるメーカーが自社製品に組み込み、たちまち世界中に広まっていきました。
 ところがアジャ博士はさっさと音響業界に見切りをつけ、Tripath社をたたみ、2008年にTula Technology Incという会社を設立して会長兼チーフエンジニアにおさまりました。この会社、なんと自動車エンジンの効率化、省燃費の技術開発というまったく畑違いのことをしているようです。
 Tripath社が消えたので、伝説のTA2020も製造されなくなったのですが、それを模したICチップは他メーカーから続々と登場して現在に至っています。

 2012年春、私はテレビの音声出力をスピーカーに出力させるための安いミニアンプをAmazon内で探していて、たまたまTA2020を使った製品を購入しました

↑ テレビの音声出力をaudio pro(スウェーデン製)のトールボーイ型スピーカーで出力させるためのアンプとして購入。それまではBOSEのアンプを使っていたが、電源入れっぱなしで使うため、省電力の小型アンプがほしかった。

 商品の紹介欄にはこんなことが書かれていました。
TA2021 TA2024 等々、最近流行のデジタルアンプですが、マッキントッシュ等の数百万クラスのピュアオーディオアンプにも勝ったといわれる元祖、Tripath TA2020-020 搭載デジタルアンプ
どんなに高品質なTA2021 TA2021B TA2024アンプも TA2020の前では無意味です
作りは中国生産、非常に作りは荒いのでご注意下さい
初期傷、バリ、複数台購入でも 色の差が出たり致します

音質に関しましては雑誌や各方面で絶賛されている通りでございます
すでに倒産してしまったTripath社のTA2020-020搭載品ですので、チップが現存する限りの品物ですが、安価に楽しんで頂けると思います。

 なんのことだかさっぱり分からなかったのですが、気になって調べてみたら上記のようなアジャ博士伝説が浮かび上がってきた、という次第です。
 購入したのはLepai(現在はLepy)というブランドのアンプで、価格は電源アダプター込みでAmazonで2880円でした。
 電源アダプターだけでも1000円くらいはするでしょうから、一体、アンプ本体のコストはどうなっているのか? と疑わざるをえません。ところが、駄目元で音を出してみたところ、驚くほどクリアな音が出てきたわけです。
 それまではBOSE社の1705というミニパワーアンプをつないでいたのですが、明らかにそれよりはクリアで美しい音です。
 すぐには信じられず、仕事場に持ち込んでメインのモニターシステム上でも聴き比べてみました。
 長年使っているnaim audioのNEIT2といい勝負。エネルギー感はNEIT2のほうがありますが、クリアな感じという意味では2880円のLepaiのほうがいいかもしれないと思えるほどでした。

何十年も信頼し続けてきたnaim audio の NEIT2といい勝負。



↑ 気になって中を見てみた

放熱板がくくりつけられている黒い板が噂のTA2020というチップ

 十数万円のオーディオアンプと、中古のパーツをかき集めて作ったらしい2880円の中国製アンプが「いい勝負」というのは驚くべきことです。コンデンサーなどのパーツを質のよいものに変更すれば、もっといい音になるのでは? と思いましたが、自信がないのでそこまではしませんでした。

 この経験以降、私は今に至るまでずっと「アンプは数千円のミニデジタルアンプで十分」という認識です。
 それまでとっかえひっかえ使ってきた何十キロもあるアンプはなんだったのか……と、虚しくなります。

↑ 川内村時代の仕事部屋。アンプやスピーカーを入れ替えながらテストしていた。

↑ 川内村時代に一時期使っていたBGWというアメリカの業務用アンプメーカーのアンプ。家庭用に売り出されたものだが、メインのボリュームつまみだけで、トーンコントロールなどはついていない。とにかく重いアンプで、冷却ファンの音も気になった。20代のときに一流のレコーディングスタジオで聴いたJBLやALTECなどのパワフルで明るい「アメリカの音」を思い出して中古を安く購入したのだが、今思えば、2880円のLepaiに負けている。古きよき時代の残滓という感じだろうか。


 Lepaiは安いのでサブとしてもう1台買いました。Amazonのレビューを読むと、製品によるバラツキ(当たり外れ)があるようです。そもそも心臓部であるTA2020チップが製造終了しているので、中古の廃棄品などから拾い集めて再利用しているはずです。コンデンサーなども、1台目と2台目では違うメーカーのものでしたし、やはり中古パーツの再利用かもしれません。幸い私が購入した2台はどちらも問題なしでした。
 その後、TA2024というTA2020の後継品を使い、コンデンサーやボリュームなどのパーツもLepaiよりはまともなものを使っているらしいMUSE M15 Ex2というアンプに乗り替え、さらに最近、TOPPING TP10 Mark4 というのに入れ替えましたが、これらも十分満足のいく製品でした。

↑ 左がMUSE、右がTOPPINGの製品。どちらも数千円で購入した。

 というわけで、私としては、アンプに関してはもはやこれ以上悩むことをやめました。これでいいじゃん、と。
 もちろん、趣味の世界のことですから、真空管アンプや昔の高級機をジャンクで購入して修理するなど、腕に自信のあるかたはどんどん遊んでください。

スピーカー自作の楽しみ

 アンプと違って、スピーカーは完全なアナログ製品です。いわば「楽器」であり、最も音が変わる部分なので、スピーカー選びはオーディオ趣味の醍醐味といえます。
 しかし、値段が高い製品が必ずしも「いい音」を出してくれるとは限りません。そこがまた面白いところです。
 私は中学生の頃から、スピーカーを自作していました。秋葉原に行ってスピーカーユニットを買ってきて、自作したエンクロージャ(箱)に組み込むというものですが、いちばん面白かったのはバックロードホーン型のスピーカーです。
 バックロードホーンというのは、その名の通り、スピーカーの後方から出る音を箱の中に巡らせた音の通路(ホーン)を通して外に出すというものです。
 当時、長岡鉄男さんというカリスマ的オーディオ評論家がいて、バックロードホーン型スピーカーを次々に設計、自作してはオーディオ雑誌に発表していました。
バックロードホーン型スピーカーの基本構造。スピーカーユニット背面から出る逆位相の音も無駄にせず、箱の中のホーン(ラッパ)構造の通路で増幅させて前面から低音成分を無理なく放射させる仕組み。小さなユニットでも豊かな低音が出る。

 うまく設計されたバックロードホーン型スピーカーは、気持ちのよい低音を楽しめるだけでなく、一般的な密閉型やバスレフ型のスピーカーでは決して味わえない臨場感を生みだしてくれます。人の声などは、まるで生身の人間がそこにいるかのようなリアルさで再生されたりして、本当に面白いのですが、音楽を正確に再生するという意味では異端児的存在といえます。
 私は音楽を作る側の人間なので、仕事部屋ではバックロードホーン型スピーカーは使いません。ミックスダウン作業の際にバランスが分からないからです。低音の再生効率がよすぎて、バックロードホーン型スピーカーでミックスダウンすると、低音不足の録音物ができてしまうのです。



FOSTEX 10フルレンジ FE103NV 上のバックロードホーンエンクロージャキットに使えるスピーカーユニットの代表。Amazonで購入で7080円(1個)


 現在の私はエンクロージャを板を切るところから始めて自作するだけの元気はありません。メインのスピーカーにしているMISSION 700LEを変更するつもりもないので、パソコンにつないでいるミニスピーカーを、元気があるときに、たまにいじって楽しむ程度です。
 大音量で鳴らすことはもうないので、10cm程度のフルレンジスピーカーユニット(低音から高音まで全帯域の音を1つのユニットで鳴らすスピーカーユニット)1つを小さなバスレフ型(空気が抜ける穴が空いている)エンクロージャに組み込んで聴き比べる、という楽しみ方。

↑ パソコン用のフルレンジ小型スピーカーをどうするか……と、あれこれ聴き比べている写真。



↑ 既製品小型スピーカーとしては、このTANNOYも悪くはないスピーカーだが、面白みはない。



↑ ミニアンプとDACを格納できるスピーカー台を製作。



↑ 一時期はこんな感じで落ち着いていたが……。



↑ 今はスピーカーは半自作。アンプはTOPPINGのTP10にしている。



↑ パソコンにつないでいたTANNOYはテレビ用になった。



↑ 床に置いたスピーカーを上向きにするためにボール紙とセロテープでサクッとこんなものを作って……

↑ いい感じに収まっている?



 ちなみに、私が長年メインのモニター用として使っているMISSION 700LE (Leading Edge)というスピーカーはイギリス製で1980年代後半くらいの製品です。当時の日本国内での定価が2台で48000円という、安いスピーカーで、私は秋葉原の店に最後の1セットとして店頭陳列されていたものを20000円くらいで購入した記憶があります。
 一時期世界中のレコーディングスタジオでスモールモニターの定番となっていたYAMAHAのNS-10M(通称「テンモニター」「テンモニ」)というスピーカーと大きさも価格帯も似ているのですが、NS-10M(これも今でも所有しています)と比較すると明らかにMISSION 700LEのほうが音の抜けがよく、雑味がない音を出してくれます。
 700LEはその後、761という後継機が出て、それも一時期所有していましたが、箱の作りなどがしっかりしている761よりもチープな作りの初代700LEのほうがスッキリした透明感のある音で、スピーカーというのは不思議なものだなあと改めて思わされたものです。

 そんなわけで、オーディオスピーカーというのは、高いパーツを使って高級な箱にしっかり組み込めばいい音がする、というものでもないのですね。そこがオーディオ趣味の面白いところです。
 数百円のノーブランド中国製スピーカーユニットを自作の箱に組み込んだものが、数十万円のブランドものスピーカーよりも心地よい音を出す、ということはいくらでもありえます。
 そういう楽しみ方こそ、幸せビンボー術的なオーディオ趣味の醍醐味といえるでしょう。

無印の中国製ユニットをダイソーの工作用パーティクルボード(板)で作ったボックスに組み込んだシステムに交換した記録は⇒こちら

『So Far Away たくき よしみつSONGBOOK1』

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